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医療機器の欠陥と医療機関の過失の競合(東京高裁平成14年2月7日判決)

【事案の概要】

 

 心臓に右室二腔症があるとの診断により右室流出路の狭窄部拡大のための心臓手術を受け、人工心肺装置中の送血ポンプのチューブの破損により血流中に空気が混入して脳梗塞を発症し、言語障害、右手運動障害等の後遺症を負った場合に、臨床工学技士に操作上の過失があったとして病院側の債務不履行責任を認め、同装置の操作に関する説明ないし警告の義務に違反する過失があったとして同装置の製造者の不法行為責任を認めた事例

 

【判決要旨】

 

〇臨床工学技士の過失について

  

 ①臨床工学技士の「チューブ設定行為は、患者血流への空気流入の危険を招くものであり、臨床工学技士の職務として尽くすべき安全性保持の注意義務に違反するもの」であり、また、②本件で用いられた人工心肺装置の取扱説明書には「機器全般及び患者の異常のないことを絶えず監視すること」との記載があったところ、「人工心肺装置とその回路及びエアー・トラップの状況に対する監視については、これを十分にしていなかった」というのであり「本件機器の操作を行うものとして安全性確保の義務から生ずる機器監視義務に違反していた」といえ、さらに、③「人工心肺装置の操作に当たっては、事故発生の場合に備えて、機器の部品、交換用チューブの備え付け、その他の被害発生回避又は患者の重篤化の防止を図るための措置を予めとっておくべき義務があった」にもかかわらず、予備の交換チューブを備え付けていなかったなどとして、臨床工学技士の過失を認めた。

 

〇人工心肺装置の製造者の過失について

 

 「人工心肺装置は手術中の患者の血流を管理し患者の生命身体の安全に直接影響を及ぼす重要な医療機器であり、その操作者には、機器の操作に関して安全性確保の義務があることは前述のとおりであり、このことと平仄を合わせて、このような医療機器の製造者にも、機能の性能のみならず、その安全操作の方法、危険発生の可能性などを十分に試験し、これを操作者に具体的かつ十分に説明し、事故発生の危険性に関しては具体的な警告を発すべき義務がある」としたうえで、「本件ポンプへのチューブの固定が不十分である場合には、ポンプ内でのチューブの浮き上がりが発生し、チューブガイドとの接触により、チューブの削れひいてはチューブの亀裂又は穿孔が生じて血流への空気混入の危険がある旨具体的な事故発生の危険性を指摘して警告すべき注意義務があった」にもかかわらず、そのような警告をしていなかったとして、人工心肺装置の製造者に過失を認めた。

 

【コメント】

 

〇本件では、人工心肺装置のチューブの破損を原因とする事故をめぐって、臨床工学技士の過失と人工心肺装置製造者の過失が問題となりました。

 

〇上記のとおり、人工心肺装置の製造者において、判決で求められているような警告を実施していれば、臨床検査技師が本件のようなミスは避けることができた(実際、判決でも臨床工学技士の「前記認定の過誤が防止し得たと考えられる」としています)といえます。

 

〇しかしながら、本件では、人工心肺装置の製造者のみではなく、臨床工学技士にも過失が認められています。

 

〇これは、医療機器操作に関して特別の安全性確保が求められる臨床工学技士としては、本件の事情のもとにおいては、たとえ人工心肺装置の製造者において前記警告が実施されていなかったとしても、なお、医療機器の設定・操作、監視及び事故発生後の患者の重篤化防止の点において、過失が認められるということを意味しています。

 

〇このように、本判決は、医療従事者という専門的知識を有する立場においては、医療機器メーカーに責任が認められる場合であったとしても、必ずしもその責任を免れるものではないとする点において、学ぶべき点がある事例になります。

 

〇なお、現在においては、医療機器などの製造物に関する製造者の責任については、製造物責任法(PL法)がその法的責任について定めています。製造物責任は、一般に、製造上の欠陥(製造物が設計・仕様どおりに作られず安全性を欠く場合)、設計上の欠陥(製造物の設計段階で十分に安全性に配慮しなかったために、製造物が安全性に欠ける結果となった場合)、指示・警告上の欠陥(有用性ないし効用との関係で除去し得ない危険性が存在する製造物について、その危険性の発現による事故を消費者側で防止・回避するに適切な情報を製造者が与えなかった場合)の3類型に区分されるところ、本件は指示・警告上の欠陥に位置づけられることになります。